離散型(動的)シミュレーションとは
シミュレーションの種類
シミュレーションの分類には様々な方法があるため、ここでは静的/動的、連続変化/離散変化(動的のみ)、確定的/確率的の 3 つの分類法に基づいて言及します。Simioは、主に動的で、離散的に変化し、確率的なシミュレーションモデルを扱います。
動的シミュレーションとは
動的シミュレーションモデルでは、(シミュレーション)時間の経過がモデルの構造および動作の本質的で明示的な役割を果たします。サービス窓口前で並ぶ待ち行列システムのシミュレーションは、到着やサービス完了などが起こるように時間を表現する必要があるため、ほぼ常に動的です。在庫シミュレーションでも、時間と在庫水準や在庫補充方策などとの間に、論理的な関連がある場合は、動的になりえます。さらに、輸送やロジスティクスを含むサプライチェーンのモデルは、時間にわたって出発や移動、到着を表現する必要があるため、典型的な動的モデルです。
動的モデルでは、(シミュレーション)時刻の任意の時点で、シミュレートされたシステムの状態を記述する状態変数が存在します。待ち行列システムでは、これらの状態変数は待ち行列長や待ち行列に顧客が到着する回数、窓口の状態(遊休、稼働、使用不能)などが挙げられます。在庫シミュレーションでは、在庫水準や発注量などが状態変数に相当します。
離散型シミュレーションとは
状態変数が時間軸上の瞬間的に区分された離散点でのみ変化する場合、その動的モデルは離散型の変化特性を持ちます。大部分の待ち行列シミュレーションモデルはこの種類に該当します。待ち行列長や窓口の状態を記述する状態変数は、顧客の到着や顧客に対するサービスの完了、窓口の休憩、故障などのような、離散的なイベントが発生する時点でのみ変化します。離散変化型モデルでは、シミュレートされた時間はこれらの離散的なイベントの時点においてのみ成立します。したがって、シミュレーションクロック変数は、あるイベントの時点から次のイベントの時点まで直接ジャンプするので、これらの各時点において、シミュレーションモデルは、発生する事柄と、状態変数イベントカレンダや統計的なトラッキング変数などの変数)に対して加えるべき変更を評価しなければなりません。
確率的とは
さらに、実際のほとんどのシミュレーションモデルは確率的です。少なくとも一部の入力値は定数ではなく、生産ラインのサービス時間や到着時間間隔の変動を特徴づけるような確率分布からの無作為標本あるいは実現値です。これらの入力確率分布や確率過程を特定することは、まさにモデル構築の一部でもあります。
簡単な離散型(動的)シミュレーションモデルの例
ここでは離散型動的シミュレーションの簡単な例として、単一サーバ待ち行列システムについて考えてみます。
この単一サーバ待ち行列システムでは、到着率μ=48エンティティ/時間、サービス率λ=60エンティティ/時間であるとします。このシステムは、生産システムの機械、銀行の出納係、ファストフード店のレジ係、または救急センターのトリアージナース、その他のさまざまなことを表すことが想定されます。(例えば単位時間当たり48人が訪れるファストフード店のレジで、このレジは単位時間当たり60人を処理する能力があると考えると理解しやすいです。)
図 単一サーバ待ち行列システム(テキストp.63)
このシミュレーションモデルを作成・実行して、離散的変化の様子を観察するために、シミュレーション時刻を横軸にとり、縦軸には、窓口の稼働状態、システム内の数、待ち行列の長さをそれぞれプロットした図を次に示します。このように、サービス率が到着率を上回っている場合、一見待ち行列は生じないように感じられますが、シミュレーション上は(そして現実世界においても)到着は(ある分布に従う)確率的な現象として起こるため、そうとは限りません。このように実際には起こるまでわかりにくい事象を、一目で確認できるようにできることもシミュレーションの強みのひとつです。
図 離散型動的シミュレーションモデルにおける状態変数の値の推移(テキストp.52)
応用分野
離散型動的シミュレーションの対象および適用領域は、製造業だけではなく、幅広くさまざまな分野において多様な用途に応用されています。シミュレーションはシステムの有効性を理解し、設計ならびに改善のために活用されています。いくつかの応用分野の例を列挙します(テキストp.5)。
- 製造業:設備投資分析、ライン最適化、製品ミックスの変更、生産性の向上、輸送、労働力の計画。
- コールセンター:人員配置、スキルレベルの評価、サービスの改善、研修計画、スケジューリングアルゴリズム。
- サプライチェーン:リスクの低減、発注点、生産と在庫の配置、輸送、拡張管理、緊急時対応計画。
- カスタマーサービス:ダイレクトサービスの改善、バックオフィス業務、リソース配分、能力計画。
- 空港:駐車場発のシャトルバス、チケットカウンタ、セキュリティ、ターミナル輸送、フードコート、手荷物取り扱い、ゲート割当て、航空機の着氷防止。
- 病院:救急部門、防災計画、救急車の派遣、地域サービス戦略、資源配分。
- 港湾:入港トラフィック、出港トラフィック、港湾管理、コンテナ保管、設備投資、クレーン操作。
- 採掘:原材料輸送、労働者の輸送、機器の割当て、バルク材の混合。
- テーマパーク:ゲストの輸送、アトラクションの設計・立上げ、待ち行列、乗車人員配置、混雑の管理。
- 通信:メッセージ転送、ルーティング、信頼性、停電や攻撃などへのネットワーク頑強性。
- 軍事:ロジスティクス、保守、戦闘、暴動対策、索敵、人道援助。
- 刑事司法制度:保護観察または仮釈放の運用、刑務所の使用率とキャパシティ。
- 緊急対応システム:応答時間、対策地点、設備の水準、要員配置。
- 公共部門:投票区への投票機の配置。
具体的応用事例の内容と効果の紹介
ここでは、これまで取り組んできた応用事例のうちの一部を簡潔に紹介することにより、多様な応用可能性があることを示すことにします。なお、以下に紹介するそれぞれの事例の詳細については、研究実績紹介のページにて、それぞれ当該論文を参照することができます。
ジャストインタイム生産
「必要なものを必要な時に必要なだけ」というジャストインタイム生産について、シミュレーションモデルを構築するためのモジュール(サブシステム)を設計・構築し、工場でのモデルを作成した。特に、かんばん方式とよばれる生産管理方式は世界的にも注目を集めており、複雑なフロータイプの生産システムについてモジュールを用いて構築することにより、短時間で効率的にシミュレーションモデルを構築できることを示した。
他に、PC組立生産工場のフロア全体を対象として、時間分析・動作分析を実施し、セル生産・水すまし、かんばん方式を総合的に分析するためのシミュレーションモデルを構築し、特に在庫管理の観点から、シミュレーション最適化を行った。
大規模流通センター
総床面積7,656平方メートルで、取扱量(各入出庫別)約340,000ケース/月、フォークリフト18台(屋内15台、屋外3台)、を擁する日用品製造企業の流通センターを対象として、シミュレーション分析を実施した。日々の取扱量は本社から情報ネットワークを介して届けられ、それを基に作業終了時刻を予測する。また、稼動すべき適正なフォークリフトの台数の決定や当該流通倉庫の取扱い能力・パフォーマンスの評価を行った。
大規模輸送・在庫管理システム
トラックによる輸送システムについて、いくつかの企業を対象にして分析を行った。工場では、日用品(洗剤、シャンプー、など)を生産しており、各地の流通センタへ輸送している。流通センタでは、製品の在庫管理を行っており、在庫状況に応じて、工場に対して輸送依頼を行っている。他方、工場では、流通センタからの要請を受けて、大型トラックに製品を積載して目的地である流通センタへ輸送する。シミュレーションによって、在庫状況の変動の様子、トラック輸送の発着時刻・積載内容が出力され、適正なトラックのサイズと台数について、検討できるようなモデルになっている。台湾の日系企業では、工場は台北市にあり、流通センタは6箇所ある輸送システムについて検討した。また、中国の日系企業では、工場は青島市にあり、流通センタは6箇所ある。さらに、流通センタにおける在庫管理方式を特定して、モジュールを構築し、シミュレーションモデル構築を容易にすることができた。
国際線出発空港ターミナルビル
国際空港・国際線旅客ターミナルビルは、出国カウンタ:48、チェックインカウンタ135、出国審査カウンタ:26を擁し、1日当りおよそ30,000人が海外に出国する。旅客は、ターミナルビル到着後、必要に応じて、旅行代理店カウンタに立ち寄り、受託手荷物のチェックを受けて、航空会社のチェックインカウンタへ進む。そしてセキュリティチェックを受けて、出国審査へと進む。その後、AGTに乗車して搭乗ゲートへ移動する。このシミュレーション分析では、国際線出国のためのチェックインカウンタでの待ち時間、手続き時間、所要時間や、旅客の待ち行列長さなどについて検討した。特に、盆や年末年始などの混雑時の旅客対応体制について検討を行い、提言を行った。
救急救命センター(総合病院内)
公立総合病院は病棟の建替え工事を予定しており、それに伴って、特に救急救命センタを対象として、新しいレイアウト案について検討を行った。患者は救急車で搬送されてくるか、あるいは併設されている一般病棟から到着する。その後、診察、検査、処置・手術など、疾患により適切な措置がとられる。ここでは、現行の救急救命センタについて、患者に関するデータを分析して、新病棟におけるシミュレーション分析を行った。特に、昼間・夜間、平日・週末、の各時間帯について、患者数の分析を通して、医師、看護士、検査技師、などの職員の勤務体制について、分析を行い、提言を行った。
総合病院の外来病棟・内科診療体制
大学病院の外来病棟の建替えにより、建設予定の病棟の各診療科および検査室などの複数のレイアウト案について、現行の外来患者の来院データを基にシミュレーションを実施し、患者の動線や混雑の度合いについて評価を行った。さらに、内科の外来診察病棟を対象にして、患者の予約方法ならびに患者数が、内科診察・検査の待ち時間に及ぼす影響について検討した。特に、再診患者の再診予約の方法について、これまで採用されている方法について、各種パフォーマンスの評価の観点から、詳細に分析した。はじめに、他の総合病院を対象にして、シミュレーション分析を行った。続いて、大学病院の内科外来についても、特に医師の勤務体制についても考慮して分析を行った。
コールセンター
都市ガス会社は、これまで利用者からの電話による問合せを各営業所、支社などで行ってきたのに対して、これらをすべてコールセンタで一括して受けることにより、サービスの向上と効率的な対応を行うことにした。各地の営業所・支社へかかってきた電話はコールセンタへ自動転送され、120名ほどのオペレータにより応対される。ここで、月、週、時刻別の1日当りコール数を調査し、一定のサービスレベルを維持しながら、最適なオペレータの勤務体制について検討を行い、種々の提案を行った。
このように離散型動的シミュレーションは非常に多岐にわたる分野での活用が可能な技術であり、その最先端を走るシミュレーションソフトウェア「Simio」は3Dアニメーションや種々の機能を用いて、分析及びプレゼンテーションに大きなインパクトを持ちます。
上記の各システムの他にも、前項「応用分野」に含まれるさまざまなシステムについて、シミュレーションモデルを構築し、分析を実施しました。たとえば、大型店舗や総合病院の大規模駐車場、自動生産システムなどの工場の生産システム、立体自動倉庫・無人搬送車によるハンドリングシステム、各種コンベヤ搬送システム、コンビニエンスストア店舗、情報システムを対象としたビジネスプロセス、などについてもシミュレーション分析を実施し大きな成果を上げることができました。
それぞれの事例の詳細についての該当論文は以下のリンクよりご覧いただけます。
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